chapter2580:二つの世界の男

画像半村良の「およね平吉時穴道行」を読了。
表題作を含む作者初期の短編集です。

自分がこの本の存在を知ったのは、多分30年以上前です。
それ以来、“時穴道行(ときあなのみちゆき)”という語感が気になっていたのですが読む機会を得ず。
Kindle化されていたので購入してみました。

表題作は江戸時代の戯作者・山東京伝と現代を繋ぐファンタジックな内容。
“道行”なので近松のような心中物を想像していたのですが、ちょっと違っていました。
山東京伝に詳しい人なら大変面白く、自分のような『名前しか知らないなぁ…』という人でもかなり面白く読める、タイムスリップものの佳作です。

他に収録されているのは「幽タレ考」「酒」「収穫」「H氏のSF」「虚空の男」「組曲・北珊瑚礁」「太平記異聞」の7編。
この中ではテレビ業界を皮肉った「幽タレ考」、クラークの「幼年期の終り」を彷彿させる「収穫」、ミステリアスでシュールな「虚空の男」の3つが気に入りました。
昭和の高度成長期に書かれた作品ばかりなので若い人には面白さが伝わりにくいかも知れませんが、当時を知る人なら楽しめるでしょう。
評価:★★★


画像二つの世界の男(1953)
THE MAN BETWEEN
監督:キャロル・リード
出演:ジェームズ・メイソン、クレア・ブルーム、ヒルデガルド・ネフ


第二次大戦後、東西に分割されて間もない頃のベルリン。
イギリス人のスザンヌ(ブルーム)は休暇を取り、3週間の予定で兄マーティン(ジェフリー・トゥーン)のいる西ベルリンを訪れます。
スザンヌを空港まで迎えに来てくれたのはドイツ人のベッティーナ(ネフ)。
彼女はマーティンが現地で結婚したスザンヌにとって義理の姉になる女性です。
ところが、到着したその日からスザンヌにはベッティーナの不審な行動が目につきます。
軍医であるマーティンは2~3日も家を空けるほど仕事に追われていたので、スザンヌは兄嫁の浮気を疑います。
翌日、スザンヌはベッティーナの案内で東ベルリンを観光することに。
2人がレストランで休憩しているとカーン(メイソン)という男性が話し掛けてきます。
ベッティーナから古い友人と紹介されますが、彼女はカーンをスザンヌに近づけたくないようで、すぐにレストランを出るのでした。
次の日、マーティンの仕事先を訪ねて帰宅したスザンヌはベッティーナとカーンがドイツ語で激しく口論している現場に遭遇。
スザンヌを見た2人が何気ない様子で会話を切り替えたため、彼女はカーンがベッティーナの浮気相手だと考えます。
そこでベッティーナは嫌がったものの、カーンからの夕食の誘いを受けることにするのですが…。

冷戦下のベルリンを舞台に展開するキャロル・リード監督のスパイ・サスペンス。
チャップリンの「ライムライト」で注目されたクレア・ブルームがその翌年にジェームズ・メイソンと共演したイギリス映画です。

本作のベルリンは既に東西に分割されていますが、まだ“ベルリンの壁”は出来ていない時期。
あちこちに検問所はありますが、比較的自由に東西を行き来できたようです。
映画はちゃんとベルリンでロケしているようで、戦後8年経ってもあちこちに瓦礫が残る町の様子が映し出されています。

兄嫁の浮気を諫めるために浮気相手と思しき人物と会った主人公が大きな陰謀に巻き込まれるというストーリー。
ヒッチコックがお得意とした“巻き込まれ型”のサスペンスです。

白黒ならではの陰影を活かしたカメラや画面を傾けるダッチアングルなど“キャロル・リード節”が堪能できる、傑作「第三の男」と似た雰囲気を持った作品でした。
メイソンとブルームのメロドラマになる終盤は少々古臭く感じますが、映像と音楽だけで『何かあるぞ…』と思わせる演出はサスペンスのお手本と言ってよいでしょう。
自分の評価も★★★★のお薦めです。

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