chapter1748:ぼくのエリ 200歳の少女

画像昨日に引き続きスウェーデン映画を鑑賞しました。
ネタバレを含む鑑賞上の注意点を書いていますので、ご注意下さい


ぼくのエリ 200歳の少女(2008)
LAT DEN RATTE KOMMA IN
監督:トーマス・アルフレッドソン
出演:カーレ・ヘーデブラント、リーナ・レアンデション、ペール・ラグナー


両親が離婚した12歳のオスカー(ヘーデブラント)は、母親と一緒にストックホルム郊外のアパートで暮らしています。
学校では同級生からイジメられているオスカーには友達もおらず、いつも1人ぼっち。
その日も学校でイジメられたオスカーは、夜になるといつものように近所の木をナイフで切りつけて憂さ晴らしをしていました。
背後に人の気配を感じたオスカーが振り返ってみると、そこにいたのはエリ(レアンデション)という少女。
彼女はオスカーの隣りに引っ越してきたばかりのようです。
それ以来、オスカーは夜に彼女と会うことが楽しみになりました。
同じ頃、近くで逆さ吊りで殺された死体が発見される事件が起きるのですが…。

ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの原作「モールス」を映画化したスウェーデン映画。
世界中の映画祭で60の賞を受賞(DVDジャケットのコピーより)し、ハリウッド・リメイクもアメリカでは公開されています。
ヴァンパイア映画なので昨年の日本公開時には気になっていました。
しかし、ラブ・ストーリーということで「トワイライト ~初恋~」のようなものを想像してしまい、単館上映だったこともありスルーした作品です。
その後、ギレルモ・デル・トロやエドガー・ライトが絶賛していることを知り、DVDを購入してみました。

原題はスウェーデン語なので分かりませんが、英題の「LET THE RIGHT ONE IN」から察すると『正しいものを入れよ』というような意味でしょうか。
ヴァンパイア映画には“招かれないと他人の家には入れない”というルールが存在します。
最近のヴァンパイア映画では無視されがちなこのルールを知らずに鑑賞していると意味不明のシーンがあるので、ご注意を。
他にも、血を吸った相手を殺さなければ同じヴァンパイアになったり、日光に当たると死ぬなど、お馴染みの約束事をちゃんと踏まえて作られているのがホラー好きには嬉しいですね。

邦題は「200歳の少女」となっていますが、日本語字幕の鑑賞では200歳だと分かるシーンやセリフは出てきません。
ただし、原作ではそういう設定なのかも知れません。
また、ある理由でエリの年齢がそれくらいであろうと推察できる設定にはなっています。

さて、最初は現代の話だと思って見始めたのですが、途中でラジオがブレジネフ書記長云々というニュースを伝えるシーンがあったので驚きました。
どうやら映画の時代設定は1982年。
確かに携帯電話もパソコンも出てきませんし、オスカーがエリと仲良くなる切っ掛けがルービック・キューブなので『ちょっと変だなぁ…』と思いながら鑑賞していたのです (^^;;

決定的なネタバレになるので迷ったのですが、あと1つだけ注意点を書いておきましょう。
それはエリは少女ではなく、去勢された少年だということです。
ただし、少年だと分かるシーンにボカシが入れられているので、日本版のDVDを見ただけでは絶対に分かりません。
エリの股間を捉えたカットがあり、鑑賞中は『なぜ、こんな少女ポルノ的なカットを入れるのだろう?』と不思議に思ったほどです。
ところが、鑑賞後にこのシーンの意味をネットで知ってビックリ。
原作ではエリがカストラートだったという設定のようで、ボカシがなければオチンチンを切った傷痕が見えるのだとか…。

この映画、最後までエリを少女だと思って見るのと、元・少年だとそこで分かるのとでは、かなり印象が違ってくるのではないでしょうか。
実際、自分はエリがカストラートだと知った時、鑑賞中に違和感があった幾つかのシーンやセリフの謎が解けたようでスッキリしました。
エロ要素がない、こういう作品にまでボカシを入れてしまう映倫(ビデ倫なのかな?)の神経を疑ってしまいます。
ウィキペディアによるとカストラートは18世紀半ばにピークを迎え、19世紀半ばに廃れたらしいので、上記のエリの年齢が200歳であっても不思議はないようです。

と、長々とネタバレを含む鑑賞上の注意点を書いてしまったのは、それらを踏まえた上で見て欲しい作品だからです。
太陽が出ているシーンでも暖かさを感じないのに、薄暗いシーンに温もりを感じる素晴らしい演出。
ピント送りを極端にしたカメラも実に効果的です。
オスカー役のカーレ・ヘーデブラント君も、シーンによっては12歳にも老婆にも見えるエリ役のリーナ・レアンデションの演技も見事。
純愛映画でありながら、ホラー映画という基本線が崩れていないのも素晴らしいと思います。

自分の評価は☆☆☆☆☆。
ヴァンパイア映画なのでグロさはありますが、そういうのが苦手な方にもぜひ見て頂きたい1本。
ベルイマンやハルストレイムを生んだスウェーデンから新たな名作が誕生したと自分は断言します!
故・淀川長治さんなら泣いて喜ぶ映画かも知れませんね (^^;;

この記事へのコメント

床山
2011年02月13日 22:09
こんばんは。
初めてコメントさせていただきます。

面白く読ませていただきましたが、少しだけ気になった点がありましたので指摘させていただきます。
原作ではエリは220年くらい生きており、去勢された少年ではありますが、いわゆるカストラートというわけではないのです。
貧しい家庭の息子だった彼は、ヴァンパイアらしき(そして、おそらく小児性愛者でサディストもある)領主(?)に拘束され性器を切断されてしまったのです。
多分、最初にエリが「カストラート」であると言った人は、「去勢」とか「男性器」とかいった露骨な言葉を使いたくなかったので遠回しに表現したつもりだったのではないでしょうか。ネット上の一部ではカストラート説が一人歩きしているようです。

映画では詳細が説明されていませんので、上に書いたのはあくまで原作に書かれていることです。
ちなみに、映画のラストシーンから多くの人が感じている「無限ループ」説なども、原作を読まれますと解釈が大きく変ってくると思います。
しゅー
2011年02月13日 23:58
あっ,この作品も「ゾンビランド」同様,観ようと思っていたものの,結局,観ずに終わってしまった作品です.
タラララさんの評価がすこぶる良いので,これも,できるだけ早くDVD鑑賞しようと思います♪
タラララ
2011年02月14日 02:31
☆床山さん
初めまして、コメントありがとうございます。
なるほど、エリはカストラートではないのですね。
これでネットで情報を知った時、カストラートにしてはエリの声が低いなぁ…と思った疑問が解けました。
多分、エリ役のリーナちゃんは元々低音なのでしょうが、カストラートという設定ならもっとソプラノ的な声の子をキャスティングするなり、高い声で話すなりの演技指導があったでしょうから。
ご指摘、ありがとうございました。

ただ、自分は基本的に原作と映画は別物という考えですので、原作がどうあれ、映画は映画内で語ることが全てだと思うのです。
個人的にラストは「小さな恋のメロディ」と同じように捉えたので、「無限ループ」とは思いませんでしたが、映画を見る限りでは、そういう解釈があっても良いと考えます。

☆しゅーさん
「ゾンビランド」はちょっと期待しすぎましたが、こちらは期待以上でした。
うちのブログにしてはネタバレが過ぎる記事になってしまいましたが、鑑賞の一助になれば嬉しいです。
ちなみに自分はエリが少女でないということを鑑賞後に知ってから、評価を★★★★★から☆☆☆☆☆へ変更しました (^^;;
床山
2011年02月14日 09:58
御返事ありがとうございます。

「映画は映画内で語ることが全て」には私も賛成です。
原作にしばられているように誤解されないかと思い、「上に書いたのはあくまで原作に書かれていること」と書いたのです。
映画のラストは明らかに観る人によって複数の解釈が成り立つように演出されていると思います。
ただ原作の読後感は、また映画とは異なると言いたかったのです。

リーナちゃんは実はかなり高音らしいです。
なので、映画では別の女優さんが吹き替えているそうです。
タラララ
2011年02月14日 14:11
どうも自分が読み違えていたようで申し訳ありません。
文字数制限がある場所で文字だけのやり取りですから、そこはご容赦を。

>別の女優さんが吹き替えている
ああ、なるほど。
リーナちゃんは実際にローティーンなようですから、これも少し不思議に思っていました。
まあ、あんな声の女の子がいても、おかしくはないんですけど (^^;;
床山
2011年02月14日 14:35
いえいえ、こちらの書き方が悪かったのです。
上のコメントを書いてから、なんだか怒ってるみたいな文章になった気がして、申し訳なく思っていたのですが・・・(焦)。
ネット上のやりとりは難しいですね(^^;)
タラララ
2011年02月14日 18:49
いえいえ、こちらこそ (^^;;
またコメントして頂けると嬉しく思います。
Jun
2012年01月11日 16:16
これはビックリするような出来でしたね。ハリウッドホラーとは全く作りが異なります。ショッカーや特撮にばかり拘り、娯楽のみを追及するハリウッドホラーを普段見慣れた私達が本作品を観て、新鮮な驚きを感じるのは当然のことです。
今にしてラッセ・ハルストレム氏と言われれば、確かに「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」の少年と少年のようで女の子の関係を思いださせます。
娯楽作品でなく、ジャンルフィルムでもない、ホラードラマ。
私が今週観にいく予定の"Tinker Tailor Soldier Spy"は本作品の監督、Tomas Alfredson氏の新作です。